ご挨拶

 理事会の決定に基づき、2021年7月から2023年6月末までの第4期の理事長を引き続き拝命することになりました。

 日々展開される様々な医療において、適切な口腔の管理はその質を大きく向上させます。がん医療はその典型と言えます。例えば、がん治療による体の抵抗力の低下(骨髄抑制など)により口腔内感染巣は重篤な全身感染症に進展することがあります。適切な口腔内の管理は感染管理上有益です。がん化学療法や、口腔内を照射野に含むがん放射線療法などは、口腔粘膜障害(口腔内の広範なびらん)を起こすことが多くあります。これに対する適切な予防あるいは対処は感染管理に加え疼痛管理上も有益です。骨転移腫瘍に用いられる骨吸収抑制薬は顎骨壊死の発症を来すことがあり、この予防、治療は患者さんの生活の質を高めます。がん手術療法においては、適切な術前の口腔内の評価が挿管時の口腔内の損傷リスクを軽減させたり、適切な口腔衛生管理が術後感染症の予防につながったりします。適切な口腔機能管理は経口栄養摂取の促進につながります。がんと闘っておられる、あるいはお付き合いされている患者さんの適切な口腔の管理は生活の質を大きく向上させるもので、がん支持療法の一翼を担うものです。
 2021年7月現在、本学会の会員数は223名となっています。2016年3月に特定非営利活動法人格を取得後、本学会は確実に成長を遂げてきました。口腔支持療法の領域は近年注目されつつあります。しかし、革新的な治療を華々しく展開するフィールドとは異なって地味な縁の下の仕事であり、かかわる関係者がまだまだ限られる中、マンパワーも仕事を取り巻く環境も厳しい現場で頑張っておられる方が多い現状と思います。設立当初、私は、そういった方々が一堂に会し、つながりひろがることで、学術的な発展はもちろんのこと、がん口腔支持療法にかかわる医療者が、取り組む仕事に誇りをもって、患者さんの尊厳を護るために、何か元気が出るような機会を提供できればと考えてきました。会員の皆様そしてご支援いただいております様々な方々のおかげで、多くのつながりおよびひろがりとともに成長を遂げつつあります。
 第4期の目標は、このフィールドで活躍される方々がつながり、がん口腔支持療法がひろがる機会を提供するための仕掛けづくり、組織体制の強化を主にしたいと考えています。具体的には、設立以来、主に有志の理事が活動のリーダーシップを取ってきましたが、学会の成長に合わせて、理事の分掌をはっきりさせるとともに、その下に各種委員会を設置します。この委員会へ会員の皆様にご参加いただき、より会員の皆さんとのつながりを活かした運営ができればと考えています。また、学術大会について、2022年度以降の大会長は公募とし、理事会や大会長を経験された方のサポートで運営していただけるようにします。がん口腔支持療法の発展に資するための様々な活動のプラットフォームとして機能できる団体になることを中期的な目標とし、長期的にはそのプラットフォームを利用して様々な医療の提供、研究(学会主導型)、研修、教育を展開することを目標に据えたいと考えています。様々なご専門の方に幅広くご活躍頂くことにより学会の活性化を図る一環として、今期は薬剤師職の先生も理事にご就任いただきました。
 国民皆保険制度を有するわが国は、がん口腔支持療法の内容を診療報酬制度に収載するなど、国際的にみて積極性と先進性があると考えています。わが国の医療の質の向上に貢献するとともに、国際的な議論に一石を投じることができる学会にしたいと考えています。日本でがん口腔支持療法を討議し、その内容をMASCC/ISOOと連携しながら国内のみならず国際的に発信できる組織となるよう引き続き本会を運営したいと考えています。
 引き続き、会員各位、そしてご支援を頂いております関係の皆様におかれましては、何卒よろしくお願い申し上げます。

 2021年7月
 日本がん口腔支持療法学会 理事長
 曽我 賢彦


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